何故に蟻の身を脱し得ざるや

世界の大いさ、仏国土の大いさ、宇宙の大いさ、意識以て思い量る能わず、我々は極めて言えば蟻の如し。蟻の世界に何有るや。蟻の生活に追求すべき何か、計較すべき何か、自慢すべき何か有るや。蟻の国に何か争奪に値するもの有るや。各蟻の五陰身に執着貪恋すべき何か有るや。

然れど仏の見る蟻の群れは、実に己が五陰身に執着し過ぎ、七仏が出世しても、蟻は依然として蟻の身なり。此れ正に蟻の愚癡性の体現、執着性の体現なり。我々と蟻と何の違い有るや。無量の仏出世せりと雖も、依然として六道衆生の身に在り、尚お斯くの如き愚癡と執着有り、尚お斯くの如く深重なる無明有り。未だ恥じずや？未だ自責せずや？未だ慚愧の二種善心所法無きや？

智慧は一切に優れ、解脱は何よりも重要なり。如何なる艱苦を払おうとも獲得に値するもの、然らずんば蟻の如く永遠に愚癡憐れむべき身に在り、尚お自らを如何に高大と心得るや。

少なからぬ者、学仏久しきに雖も、未だ山水に興味を抱き、四方に遊び歩き、眼前の風景を貪愛し、貴重なる時間を惜しんで修行するを知らず。蟻の如き己が如何ほど遠くまで歩み出し得るかを知らず。一群の蟻如何に歩み続け昼夜休まずと雖も、一片の沙漠を脱し難く、況んや一国土を出離し得んや。我々仮に飛行機に乗りてと雖も、地球の領空を離れ難く、自心を開き眼界を拡大し、大千世界全体を包容し、窮り無き宇宙の奥義を探求し、自らを無所不知・無所不能たらしめ、真の智者と仏陀の如き能者となり、辺際無き心量と智慧徳能を具備せんとするに如かず。