原文:
身從無相中受生,猶如幻出諸形象。幻人心識本來無,罪福皆空無所住。
釈:第一句「身は無相の中より生を受く」とは、色身は即ち色陰であり、衆生の心識を遮蔽して衆生に妄を真と認めさせ、衆生は永らくこの色身を以て我と為し真実なりと以為う。無相は阿頼耶識・第八識・如来蔵を指し、これが真心にして形無く相無く、色声香味触法の相無く、三界中何れの相も無し。虚空の如きも又虚空にあらず、虚空は無法にして仮相なり、この心は真実有にして実相なり、真実の体性と作用有り。
真心は万法を生じ色身を含む、色身はこの心より生を受けたり。衆生は我執の絶え間無きが故に、意根は自己に執着し、死後には中陰身有りて有縁の父母に遇えば、意根は第八識を伴い胎に投じ、名色即ち受精卵を形成す。第八識に地水火風の四大種子有るが故に、母体中の四大元素と接触し、受精卵を変生し、七日毎に一変し、頭四肢眼耳鼻舌身を生じ、五箇月程にして識心を変生し生存環境を分別す。六根円満すれば第八識は業風を吹き頭を下げて母胎を出ず。第八識は又四大元素を吸収し嬰児を児童少年青年老年と変え遂に死亡す。故に色身は第八識より変生し、第八識は又相無きも、無相にして能く一切の相を変現す。
第二句「幻の如く諸形象を出だす」とは、第八識が変現する色身は幻化の如く、無一物より受精卵となり更に成年の大なる色身に至り、象の如く大ならしめ、龍の如く大ならしめ、大鵬金翅鳥の如く大なる色身を変現す。恰も魔術師が虚空に忽然と美女を変化するが如し。亦画師が白紙の画布に山水人物を随意に描き出すが如し。空中の白雲が聚散して猫・犬・花を形成するが如し。これらの幻化物は空より来たり空に去り、根本的に把捉すること能わず、如何に執着するも消失して去る。
第三句「幻人の心識は本来無し」。衆生の受精卵中には本来六つの識心無く、分別性無し、五箇月程にして初めて第六意識心有り、続いて耳識鼻識舌識身識有り、出生七日后に眼識能く分別す。これらの分別する識心は刹那刹那に生滅し真実ならず、一刹那中に八万一千回の種子生滅有りて衆生六塵を分別し得。而して各々の種子は阿頼耶識より輸送され、若し中間に一個或いは数個の種子が輸送されざれば識心の分別性は存在せず。例えば灯が光を発するには電流必要なり、電流は電子により形成され、一つの電子が前を生じて滅し、次の電子が直ちに生じて滅し、無数の電子が継続し電流を形成し、電灯を通じて電球は光を発す。
心識の種子は恰も其の電子の如し。一股の水流の形成も亦一滴の水一滴の水が相次ぎ断絶無く形成されるが如し。心識種子は其の水滴の如し。水流はポンプより導出され、電子は発電機より出力さる。阿頼耶識は発電機とポンプの如く、一つの識種一つの識種を送り出し、一刹那八万一千の識種が前後相次ぎ断絶無く、識心を形成し、識心の活動有りて分別の機能有り。若し阿頼耶識が離れ活動せざれば、識心生ぜず分別性も無し。身体は一塊の木の如し。
第四句「罪福皆空にして住する所無し」。罪業と福業は共に妄心より造られ、妄心が身行・口行・意行を造作する同時に、善悪不善不悪を問わず、阿頼耶識は記載収存す。来世に業縁成熟するを待ち、阿頼耶識は業種を出力し衆生報いを受く。而して報いを受ける時の五蘊は変化し前世のものに非ず。業を造る者と報いを受ける者は共に生滅する虚妄の不実なるものにして、罪業福業も亦生滅する虚妄なり、福報は一旦享受すれば即ち無く、罪業は受報終了或いは懺悔すれば消滅し、皆生滅法無常法なり。
例えば妄語業は、造作される前は何処にも蔵されず、造作された後は言語無く業行消失し、消失後も何処へも往かず。然れども全行為過程を阿頼耶識は悉く記載す。妄語の此法は虚妄なり、誰が妄語を打つか。身体は妄語を打たず、口は妄語を打たず、舌は妄語を打たず、然らずんば死人も妄語を打たん。舌識心意識心は妄語を打たず、又念念生滅す。意根も語せず妄語を打つ能わず。而して阿頼耶識は口無く舌無く、更に妄語を打たず。根本的に妄語を打つ者無く、妄語業は即ち虚妄なり。
衆生は阿頼耶識が幻化したものであり、而して一つの幻化された仮の人間は、恰もロボットや操り人形の如く、業行を造作するも亦虚妄なり。彼らに罪を定むること能わず、罪を定めても彼らは受けず。幻化された衆生も亦如是なり。罪福の虚妄性には多くの事実を以て証せられる。阿闍世王の事例を以て言えば、阿闍世王は父を殺し業報が現前し、世尊に謁見せんとす。世尊は阿闍世王に父なる此法の虚妄を分析せしめ、則ち父を殺す此法は虚妄なりと為し、阿闍世が聴き理解した後に罪業は消失し、命終に際して無間地獄に堕ちず、且つ極楽世界に往生せり。見るべく罪業福業の虚妄なるを。
又例えば、阿羅漢初果を証得した者、或いは明心した者は、無始劫の三悪道の罪業が消滅し、未来永劫三悪道に堕ちて報いを受けず、只人中にて苦を受く。万法は罪福業を含めて生滅・無常・空幻なり、此の道理を深刻に剖析すれば大乗無生理を悟得し、実義菩薩と成る。
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